2005年 12月 09日
除細動をためらった医師の話
相手は救急病棟(緊急入院となった患者さんが入る病棟。内科系も外科系も混合となっている。)の顔見知りの看護師でした。
看護師:「あ、のざこじ先生、今大丈夫ですか?実は脳外科の患者さんが急変しているんですけど、脳外科の先生一人で処置に当たっているものですから・・・・・・。脳外科の先生が救急の先生を呼んでと言ったわけでは無いのですが・・・・。」
のざこじ:「すぐ、行きま~す。」
脳外科の先生は自分より5年ほど上の先生でしたが、きっと看護師の電話の雰囲気からは「何かあるんだな?」ということが伝わってきたので、急いでその病棟に駆け付けました。
病室に入ると脳外科医は懸命に心マッサージ中でした。(すでに昏睡状態の患者さんでしたので呼吸はすでに人工呼吸管理をされていた。)心電図波形を見てみると心室細動(VF)です。除細動器も傍らにあります。
この場合、痙攣している心臓を治すために最初にするべき治療は「一刻も早い電気的除細動」です!(TV「救命病棟24時」でもやっていたのでたぶん間違いありません!(笑))
のざこじ:「あの~、VFですので除細動をかけましょうか?それとも、もうかけました?」(なるべくプライドを傷つけないように言いました。)
脳外科医:「いや、かけてません。この方は心臓にペースメーカー入れているのでかけられないんですよ。除細動すると壊れてしまいますよね。」
のざこじ:「・・・・・」
危機的状況の患者さんの治療において重要なのは、「今、まず、何をすることが最優先事項なのか?」ということです。
上記の患者さんは心室細動を早期に解除しないと確実に死にます。脳外科医の言うように電気ショックによりペースメーカーが壊れる可能性もあります。でも、今はペースメーカーは何の役にも立っていないし、もし壊れたら自己心拍が戻ったあとで簡易的なものを入れれば良いだけです。
なので、
のざこじ:「これは除細動の適応です。通電もペースメーカーから3㎝も離して行えば壊れないとされてます。じゃあ、ショックします!みなさん、離れて下さい!」
「バンッ!」
一発目のショックで自己心拍再開です。(でも、結局は数日後に患者さんは亡くなりました。脳外科医をかばうわけではありませんが、除細動の遅れが原因ではありません。VFを起こすほど頭の中の状態や全身状態が悪くなっていたからです。)
おわかりの方も多いように、これは、のざこじが凄いわけでも、なんでもありません。電気的除細動施行時に気をつけることをACLS(2次心肺蘇生プログラム)で学んでいたというだけの話です。そして、その場の流れの中で何を重要視したか、というだけの話です。
ちょっと、話がずれますが、救急隊の方から外傷症例や疾患の話で「こういう患者がいてこういう状況が起きたんですが、どうすれば一番良かったのでしょうかね?」といった質問をよく受けることがあります。
一応、「自分なら、こうですかね~。」というお話はさせて頂くのですが、私は現場に行くわけではありませんので、結局は、現場の救急隊員が、自分のそれまで学んだ知識と技術の中から何が一番最優先されるべきか?を瞬時に考えて行ったことが一番正しいのだと思います。
でも、そのためには日々努力していかないと「俺の行動が一番正しい!」と胸を張っていうことはできませんけどね。
のざこじは背骨も頭も弱いのでいつも「あの行動はもう少し早くできたはず。」とか、「あそこで開胸していたら・・・。」と反省の方が多いですけどね・・・。