2008年 04月 29日
骨盤骨折はある?ない?~全身観察の大切さ
大きな事故で、救急隊が現場到着時から心肺停止状態の患者さんが搬送されることになりました。現場で心肺停止患者さんは救命は困難なことが多いですが、スタッフとともに緊急開胸術の準備等もして搬入に備えました。
救急外来に搬入時も心肺停止は変わらず。気管挿管、静脈路確保、緊急開胸心マッサージなどの処置を行いました。多発肋骨骨折、血胸などがありましたが、致死的な出血源としては腹部臓器損傷か骨盤骨折が疑われました。
ある医師が骨盤を触診しましたが、「骨盤の動揺はないようだ。」と言いました。(注:腰骨(骨盤の腸骨翼)を両側から触診したときに、大きな骨折があるとグラグラした感触がある。)
しかし、そのあと私も触ってみましたが、グラグラ感でいっぱい(?)の骨盤でした。
で、写真はこんな感じでした。
いわゆる不安定型の骨盤骨折で、予後不良のタイプでした。
その後、あらゆる救命処置にも反応なくなり(一時的には心拍再開も認められました。)、結果は残念なものとなりました。
患者さんの体をきれいにしたあとに救急隊の記録を見直したのですが、そこには、
骨盤動揺 なし
と記録されておりました。(注:現場で外傷心肺停止ですから、骨盤動揺はみなくても良かったかもしれませんが。でも、見てはいけないわけではありません。)
さて、救急隊向けの外傷初療教育プログラムJPTECでは、骨盤骨折の触診についても教えております。なので、この記録を書いた救急隊員もその触診方法で観察をしたはずです。なのに、「動揺なし」と記録に書いております。また、私の同僚の医師も「骨盤骨折はなし」と診断してます。
これは、彼らの経験不足ということだけではなく、日頃JPTECコースでインストラクターとして参加している我々の責任もあるかもしれません。
骨盤骨折のみならず、患者さんの体から重症外傷を見つけ出すには、観察者が「大きな外傷が何か隠れているんじゃないか?」という意志を持って観察する必要があると思います。意識のある患者さんなら痛みも訴えますが、今回のような意識なしの患者さんでは自分の観察力だけが頼りとなります。
そんなわけで、次回のJPTECコースではこの症例も例に出しながら指導に当たっていきたいな、と思っています。
全身観察って難しい・・・・???。