2008年 06月 14日
多数傷病者発生の現場で、「黒」の判定をする決断・・。
「重症を負った友達が「この人は黒」と言われて悲しかった。」
という主旨の発言をしていると聞きました。
「残念ながら、この患者は「黒」だ。」
と救急隊や医師が言うのは、多数の傷病者が発生した際におこなうトリアージの時です。
トリアージとは、傷病者数に対して、十分な台数の救急車がなかったり、十分な医療資源がないような状態の時(災害時など)において、最大多数の患者を救命するために、多数の傷病者を重症度と緊急性によってクラス分けして、治療や搬送の優先度を決定することです。
つまり、多数傷病者がいる場合には、救命不可能な状態の患者さんを救急車で病院に運ぶと、救命できる可能性のある患者さんの搬送が遅れてしまいます。その結果、2人の患者さんの命が失われてしまうかもしれません。それならば、助かる可能性のある患者さんを病院に早く搬送するという判断をした方が多くの患者さんの救命ができることにつながります。
(トリアージについては、5月のDMAT講習の報告記事でも書きました)
・そのため、自力歩行できる患者さんは、とりあえず後回しになります。(色分けで「緑」)
・呼吸や、循環(脈拍、末梢循環)にあきらかな異常があれば、急いで搬送して治療を受けなくてはいけない治療優先群(色分けで「赤」)となります。
・治療開始までに数時間は待てる状態の患者さんは、色分けで「黄色」となります。
・明らかに亡くなっている患者さんや、すでに亡くなりそうなサインが出ている患者さんは色分けで「黒」となります。
JR福知山線事故の時にも、「黒」と色分けされた患者さんが多数いましたが、あとで遺族の間で問題(疑問)になったのは、
「自分の家族はなぜ「黒」と判断されたのか。亡くなった時間はいつだったのか?」
と言うことだそうです。(トリアージタッグには、ほとんど記入されていなかったそうです)
確かに、「黒」とつけられた患者さんの家族は「本当に亡くなっていたのだろうか?本当に助からなかったのだろうか?」というお気持ちになるでしょう。しかし、「黒」と判断するには、それを判断する人間にもかなりのプレッシャーがあるはずです。いわゆる苦渋の決断なのです。
どんなにベテランの救急隊員や医師であっても、しかも医学的にきちんと判断しての「黒」という決断であっても、あとになって「あの判断は正しかったのだろうか・・・。」と必ず考えてしまうはずです。
今回の亡くなられた方の友人のお気持ちは痛いほどわかります。しかし、その一方で、辛い思いを背負った医療関係者、救急隊員がいることも皆さんにわかっていただきたいと思います。