2008年 10月 17日
バックボード固定、あなたならどうする???
今回は、一般の方への配慮はない文章(=専門用語あり)になっているかと思います。お許しください。
〔症例〕85歳・男性・高さ約2.5mの屋根からの転落。
→高齢者というだけでドキドキしますね。高齢者は若者に比べて「え、こんな受傷機転で?」という外力でも重症外傷を負っていることがあります。また、痛みもはっきり訴えないことも多々あります。また、いろんな合併症もあり、いろんな薬も飲んでいます。(特に、注意すべきは、抗凝固薬など。)
転落地点は土。バイタルは正常。麻痺等なし。主訴は腰部痛及び左臀部痛。左臀部から少量の出血あり。止血済み。屋根から転落後、徒歩で自宅内に入り汚れた衣服を着替えたとのこと。受傷時間は救急車要請の1時間前。
→バイタル正常で少しホッとしますね。しかも、下はコンクリートではなく土。
・・・・しかし、高齢者は脈拍を減少させるような薬を飲んでいることもあり、ショックがわかりにくいこともあります。また、骨も容易に骨折します。
痛みの場所からは、脊椎系の損傷以外に腎損傷、碑損傷も疑わなくてはいけません。歩けても骨盤骨折も考慮すべきでしょう。
救急隊到着時は、自宅玄関で座位の状態で腰部痛を訴えていました。以上のような症例です。
→高齢者、受傷機転、腰痛、、、、いや~な感じです。(^_^;)
お叱りを受けたというのは、バックボード固定をしていなかったことです。確かに高エネルギー事故ですが、自分的には必要がないと判断しバックボード固定をしませんでした。確かに高エネルギー事故に該当しますし、医師の言ってることも間違っていません。
→おっしゃるように、間違いなく高エネルギー事故です。ボード固定でよかったと思います。背骨に圧痛がなくても圧迫骨折があることはよくあることです。
しかし、救急隊員さんが観察の結果、「必要なし」と考えたならその根拠をきちんと説明するとよかったと思います。
いつも救急隊の方に言うことですが、JPTECの活動は、「なにも考えずに脊柱固定すること」ではありませんよね。「きちんとバイタルサインや、解剖学的所見をみること」ですよね。それができているのなら、
「こういう状態でした。これも考えましたが、固定は行いませんでした。搬送中はこんなことをきちんと観察しました。」
と伝えるといいと思います。
しかし、この症例では「高齢者の高エネルギー事故で腰痛あり」ですから、重症外傷が考えられます。二次損傷を防止する観点からは、L&G症例としてボード固定&酸素投与が患者さんのためかと思います。(脊柱の変形が強くて固定ができない、側臥位の方が患者さんが楽だ、などの理由があれば、ボードじゃなくてもOKでしょう。その代わりいつも以上に慎重な観察が必要です)
帰署後に調べると現在のガイドラインには高さの基準がないのですが、以前のものには6mとありました。屋根の高さ、観察の結果からバックボード固定必要なしと判断した自分の考えは間違っているのでしょうか?高所墜落の基準は?という疑問でした。申し訳ないのですが、先生はどう考えますか?よろしくお願いします。
→おわかりのことか存じますが、ガイドラインはあくまでも「ガイドライン」。症例にあわせて柔軟に対応することが重要です。今回の症例で一番気にしなくてはいけないことは、高さのことももちろんですが、「高齢者」であるということかと思います。
小児、妊婦、高齢者は、健康な成人の外傷とは全く違うと考えていいと思います。軽微な外傷でもオーバートリアージする必要があると思いますし、本症例でも受け入れ医師はそのように考えたのではないでしょうか?
救急隊員さんの現場活動に間違いはなかったはずです。ただし、患者さんに不利益なことが起きないように、今後の改善点をあげるとしたら「高流量酸素投与&ボード固定」をおこなう症例であったと思われます。
お答えになったでしょうか???
「ブログ上症例検証会」になってしまいましたね。(笑)